京都簡易裁判所 平成7年(ろ)160号 判決 1995年12月15日
主文
被告人を罰金一五、〇〇〇円に処する。
右罰金を完納することができないときは、五、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(犯罪事実)
被告人は、警察署長の許可を受けないで、平成七年一月一四日午後二時五二分ころから同日午後三時七分ころまでの約一五分間、道路標識により駐車が禁止されている京都市北区北大路通烏丸東入る約八〇メートル先北側付近道路の部分に駐車するに当たり、車両を離れて直ちに運転することができない状態にする行為をし、普通乗用自動車を駐車した。
(証拠)<省略>
(争点に対する判断)
被告人は、被告人の本件駐車行為は、「車両を離れて直ちに運転することができない状態にする行為」に当たらないから無罪である旨主張する。
前掲各証拠によると、次の事実が認められる。
1 京都府警察本部の警察官佃浩巳は、本件違反当日の午後二時五〇分ころ、駐車違反の取締りのため、本件違反現場の西方約六〇メートルの所に赤色灯を点灯してパトカーを止めたうえ、他の二名の警察官と手分けして取締りを開始した。
2 本件違反現場に止めてある本件車両(京都五四と四四七七)とその東方約五メートル付近に止めてある車両の現認に当たることになった佃巡査は、この二台の車両の所へ行き、車内に人が乗っていないこと及び駐車禁止除外の標章がないことを確認したうえ、運転者と思われる者を捜したが、付近には歩道を通行する歩行者が散見されるだけで、立ち止まっていたり、立ち話をしている者などはいなかった。
3 また、本件違反現場の、歩道を隔てて北側にあるブティックの店内には運転者はおらず、このブティックの西隣の文具店及び東隣の食堂とも、外からは店内を確認することができない状況であり、また店先にも運転者と思われる者の姿はなかった。
4 そこで、佃巡査は、腕時計で時間を確認して、現認開始時刻を路面に一四時五二分と記し、現認を開始したところ、午後三時七分ころ、本件車両の運転席付近へ戻って来た被告人に気づいたため、被告人が止めたものであることの確認をするなどしたうえ、放置駐車違反を違反事項とする交通事件原票を作成して被告人に反則告知をした。
以上の事実が認められ、右認定事実によると、被告人は、本件違反当日の遅くとも午後二時五二分ころから同日午後三時七分ころまでの間、本件違反現場に本件車両を継続的に停止して駐車したものであり、かつ、その間車両の周辺の視認可能な場所にいなかったことが明らかであるから、被告人の本件駐車行為は「車両を離れて直ちに運転することができない状態にする行為」に当たるものというべきである。
前掲各証拠によると、佃巡査は本件違反現場で被告人に対し、駐車中の行き先を尋ねたけれども、被告人は、言う必要がないとして答えなかったことが認められるところ、被告人は、当公判廷では、前記文具店の二階にいてスポーツクラブの入会手続きをしていた、旨供述した。そのうえで、被告人は、「警察官は拡声器などによる移動の呼びかけをしなかったが、もしそのような呼びかけがされておれば、直ちに本件車両を移動することが可能であったから、被告人の行為は『車両を離れて直ちに運転することができない状態にする行為』に当たらない」旨主張する。
道路交通法一一九条の二の「車両を離れて直ちに運転することができない状態」とは、駐車違反の現場に運転者がいない状態、より具体的には、駐車車両の周辺の視認可能な場所に運転者がいない状態をいうものであると解されるところ、同法条が、同法一一九条の三の現場に運転者がいる場合の駐車違反と比べて重い刑を定めているのは、駐車違反の現場に運転者がいない場合には、警察官等が同法五一条一項による移動を命ずることができないため違法な駐車状態の解消が困難であり、あるいは緊急自動車に対する避譲義務の履行ができにくくなるなど、交通に与える障害の程度が大きく、さらには社会的な非難の程度も高いと考えられるからである。
そうだとすれば、仮に、拡声器による移動の呼びかけ広報があったときにはそれに気づいてこれに応ずることが可能な場所に運転者がいたとしても、その場所が駐車車両の周辺の視認可能な場所でない場合には、「車両を離れて直ちに運転することができない状態」にあるとするのを妨げないというべきである。
なぜなら、道路交通法五一条一項による警察官等に移動命令は、拡声器による移動の呼びかけ広報を前提とするものではないうえ、実際上も警察官等が拡声器を携帯していないことや、時間や場所によっては拡声器の使用が相当でない場合もありうるのに、拡声器による移動の呼びかけ広報の有無によって「車両を離れて直ちに運転することができない状態」の成否が決まるとするのは相当でないからである。
本件駐車違反の際、被告人が本件車両の周辺の視認可能な場所にいなかったことは先に認定したとおりであり、前掲各証拠によると、被告人が当公判廷で供述する文具店二階の内部の様子を本件違反現場から視認することは不可能であると認められるから、被告人が右文具店の二階にいたものであるとしても、先の判断は動かない。
被告人の主張は理由がない。
(適用法令)
判示行為につき 道路交通法一一九条の二の一項一号、四五条一項
労役場留置につき 平成七年法律第九一号による改正前の刑法一八条
訴訟費用の負担につき 刑訴法一八一条一項本文
公判出席検察官 濱克彦、谷賢治
(裁判官 喜久本朝正)